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高揚力装置ってふっしぎー!!

この記事は東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2017向けの記事です.

0. はじめに

どうもこんばんは,人生です.今回はカンマピリオド付きです.

卒論で高揚力装置の数値流体力学(Computational Fluid Dynamics,CFD)解析を扱ったのですが,高揚力装置についての理解が浅いため,基礎的なことの備忘録として書きます.

 

1. 高揚力装置とは?

例のごとく,詳しいことはWikipedia先生に聞いてください.要するに,翼の特性に関して,高高度で高速飛行する巡航時と,低高度で低速飛行する離着陸時とで要求されることが全く違うので,翼形状を変形することでそのギャップを埋めてやろう,という機構です.具体的には,離着陸時の低速飛行でも十分浮いていられるように,大きな揚力(Lift,L)を得ることを目的として搭載されます.

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後縁フラップ.Wikipediaより.

飛行機によく乗る方であれば,離着陸の前後に主翼後縁が後ろに伸びていることを目にしたことがあると思いますが,多分ソレです.

あと個人的にですが,主翼の後ろからツンツン生えてる機構をエンジン後部だと思ってた時期もありました.アレはフラップを支持かつ移動させるためのものらしいです.確かにあんなにエンジンないですよね.

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主翼後縁のツンツン.Wikipediaより.

もっとも単純な高揚力装置は,翼の後部(後縁,Trailing Edge)がぺこっと下向きに曲がる単純フラップ(flap)ですが,普通の旅客機は翼の前部(前縁,Leading Edge)のスラット(slat)と,後縁のスロッテッドフラップ(slotted flap)を採用しています.多分.

これはスラット,フラップの位置に注目したとき,それぞれと,動かない方の主翼(母翼,mainとか?表記ゆれでよく分からん)との間に間隙(slot)があることがわかります.

高揚力装置はこの間隙が重要な役割を果たしています.

 

飛行機の翼は上面が低圧,下面が高圧になることで揚力を得ます.特に上面前縁部は下面前縁からの高速な気流の回り込みにより,最も低圧となる領域です(サクションピーク).下図はジューコフスキー翼の翼表面圧力係数(C_p)分布ですが,上面でマイナス方向にピークを迎えた後,緩やかにプラス方向に移っていく様子がわかります.ここで,C_pは一様流を基準として,マイナスが低圧,プラスが高圧を表します.ちなみにC_p軸を逆向きにとるのは航空業界の慣例だそうです.

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ジューコフスキー翼の表面C_p分布.

この傾向は,上面において,前縁から後縁に向けて圧力が上昇することから,逆圧力勾配などと呼ばれます.問題はこの大きさで,あまりこの逆勾配が大きすぎると,圧力の増大に伴う流速の低下により,もはや気流が後方に流れられない状況となります.

これは剥離という現象を引き起こし,失速につながることから,大変に望ましくない状況です.逆勾配の大きさはサクションピークの大きさに依りますから,高揚力発生時に剥離がシビアな問題になるわけです.多分.

 

ここで,翼上面で流速が落ちてきて剥離が起こるなら,流速を大きくしてやればいいのでは,という考えになります.知らないけど.

これが間隙の役割で,ホースの出口を狭めれば水の勢いが増すのと同じように,翼下面の空気が狭い間隙を通過する際に加速され,フラップの上面を流れることで,フラップでの剥離を避けつつ高揚力を得られるようになります.多分ね.間違ってたら教えてください.

 

2. 高揚力装置の解析

さて,前節で述べたように,高揚力装置は間隙からの流れ込み(slot jet)を伴うため,1要素の単純翼に比べ流れ場が複雑になります.このことをCFD解析によって実感してみます.

CFDソルバは私が(何も貢献していないが一応)所属している研究室で先生や先輩方が開発されてきたものを使用します.計算スキームなど詳しくは参考文献[1, 2]をご覧ください.バレたら怒られないか不安です.

使用する翼はNLR-7301という,母翼とフラップからなる単純な2要素翼型です.これは風洞実験[3]やCFD解析[4]が盛んに行われていて,テストケースとしてよく用いられます.Wikipedia先生によればおそらくスロッテッドフラップに分類されると思います.

なお,図中のx/cy/cは基準コード長(前後縁間長さ)cで無次元化した座標を表します.

とりあえずC_l -\alpha曲線を下図に示します.C_lは揚力係数で,揚力を無次元化したもの,\alphaは迎角,つまり一様流に対する翼の角度です.MainとFlapはそれぞれ母翼とフラップのC_lを意味し,\mathrm{Total}=\mathrm{Main}+\mathrm{Flap}です.Flapは右軸を用いているので可視化トリックにご注意ください.

\alpha=15.1^\circでTotalとMainがガクッと落ちていますが,これが失速という現象です.ただし,今使っているCFDソルバは失速(剥離)を前提としていないため[2],結果程度にしか扱えないことに注意します.この失速迎角以前では,Totalがほぼ線形に増加しており,現実の翼型にもよく見られる傾向です.

また,Totalの大きさを覚えておいてください.

ちなみに,\alpha=6^\circでの流れ場を速さカラーマップで可視化すると下の2枚のようになります.

1枚目は翼の全体図ですが,翼の前縁上面で下面からの高速の回り込みが生じていることがわかります.

2枚目は母翼とフラップ間の間隙部の拡大図ですが,間隙を通過する際に徐々に加速し,フラップ上面でそこそこ高速になることが分かります.カラーマップのレンジには注意してください.少なくとも母翼の後縁からの流れ(後流,Wake)よりは高速になっており,slot jetたる所以がうかがえます.

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\alpha=6^\circでの速さカラーマップ,全体図.

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\alpha=6^\circでの速さカラーマップ,間隙部.

下図に翼表面C_p分布を示します.Slot jetの影響か,フラップ上面で再び小さなピークが現れていることがわかります.

ここで,多要素からなる翼型は要素間での干渉の影響が大きいと考えられます.例えば,先に少し触れた母翼からの後流や,slot jetの影響が気になります.

そこで,NLR-7301の母翼とフラップをそれぞれ単独に計算し,それぞれの結果を足し合わせてTotalとし,元のNLR-7301(Baseline)と比較します.そもそも流れ場がまるっきり変わるのでナンセンスではありますがとりあえずやってみましょう.

 

C_l -\alpha曲線は下図のようになります.

Flapに関して,この図からはわかりませんが,データ上では少なくとも\alpha=4^\circで剥離しています.実はそもそもフラップは迎角が20^\circに設定されているため,この程度で剥離してもおかしくはないでしょう.

Totalについては,フラップで剥離しているため意味を持つかは疑問符が付きますが,Baselineを下回ることがわかります.

何よりもMainの大きさがBaselineの半分程度にとどまります.下流のフラップが上流の母翼にまで影響を及ぼすと考えるとなかなか面白くはないでしょうか?

 

以上から,次のことが言えます:

  • 間隙での加速(slot jet)が可視化された
  • フラップ上面で小さいながらもC_pのピークが現れる
  • NLR-7301全体のC_l は要素ごとのC_l の単純な線形和にはならない
  • フラップの存在が母翼のC_l に影響を及ぼす

3. 結論

空力もCFDもわからないのでこれから勉強します.助けてください.

 

参考文献

[1] M. Harada, Y. Tamaki, T. Takahashi, and T. Imamura. Simple and Robust Cut-Cell Method for High-Reynolds-Number-Flow Simulation on Cartesian Grids. AIAA Journal, Vol. 55, No. 9, pp. 3027–3039, 2017.

[2] Y. Tamaki, M. Harada, and T. Imamura. Near-Wall Modification of Spalart–Allmaras Turbulence Model for Immersed Boundary Method. AIAA Journal, Vol. 55, No. 8, pp. 2833–2841, 2017.

[3] B. Van den Berg. Boundary Layer Measurements on a Two-Dimensional Wing with Flap. NLR TR 79009 U, 1979.

[4] M. Lei, Z.and Murayama, K. Takenaka, and K. Yamamoto. CFD Validation for High-Lift Devices: Two-Element Airfoil. Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Vol. 49, No. 163, pp. 31–39, 2006.